なんでもよいからとにかく書くやつ

五秒で飽きたけどまた再開した

「わたしの星」を観たので感想とか考察とか①

メメントモリとか言ったけど五秒で飽きて書いていなかったブログです許して(テヘペロ!)

というわけでこないだ観た「わたしの星」という演劇が面白かったので感想。めちゃくちゃネタバレするのでネタバレを気にする人は読まないでください。


物語の舞台は、地球から火星への移住が盛んになった時代、人がいなくなりつつある地球の、日本の、小さな島にある、全校生徒10人の高校。
一週間後の文化祭に向けてみんなでワイワイと準備をしていた朝、転校生として「ヒカリ」という女の子がやってくる。火星から来たという同年代の女子を前に大はしゃぎする面々だったが、なんと、在校生である「スピカ」が今日火星に転校するという知らせが舞い込む。問いただそうとみんなでスピカを探し回る中で、生徒達はそれぞれに気持ちをぶつけあっていく…という話。

実際には物語の構造はもっと複雑だったけどそこは割愛。
「わが星」で有名な劇団ままごとの柴幸男さんが脚本を書いていて、キャストは全員本物の高校生(スピカ/ヒカリ以外は役名と本名が同じ)。2014年に初上演された劇で、今回は再演ということになるけれども、キャストも違うしキャストに合わせて脚本もかなり変わっているらしい。ちなみに2014年版の戯曲はままごとのサイトで公開されている。



まずとにかく4組の百合に1組の兄弟愛が合わさった五重奏で全く圧倒されてしまった。柴幸男さんというのはかなり深刻に百合をこじらせているんだなとしみじみしてしまった。

・スピカ×ヒナコ
「親友の世話を焼くことで自分のアイデンティティーを保とうとする女の子×自分に自信がない女の子の愛憎」
スピカとヒナコが今回の主役格。百合としての相互依存度もかなり高かった。
幼い頃に両親を亡くしたヒナコにとって自分を一番知ってくれている人間はスピカで、スピカもそれを誇りに思っているんだけど、でも「今までの自分のことを知られている」「相手の過去を独占的に知っている」というのは呪縛になる時もあるわけで。スピカがいないと何もできない(と思い込んでいる)自分が嫌なヒナコはスピカのことを憎んでもいて、逆にスピカはスピカでヒナコの世話や応援ばかりしてあまり自分のことをしていなかったりする。なんかすごい百合だった。あとちょっとスピカが毒母っぽいというか母と娘の共依存関係っぽかった。
スピカからの「ヒナコはなんでもできるよ」という応援の言葉に「そういうのやめて…」と返してしまうヒナコの応援に押し潰されそうな気持ちはめちゃくちゃわかる。でもスピカはスピカで本気でそう思っているのもわかる。
スピカは結局「この星は狭すぎるから」「ここにいるとずっと二人でいられちゃうから」という理由で、自立のためにヒナコやみんなと別れて火星に行くことを選ぶんだけど、ここはなんかこう「成長のために別れを選ぶ切なさ」という古典的な百合だなーと思った。男性の好きな百合というか。でもスピカとヒナコが親子なら確かに別れなきゃいけないのかも。
ちなみに「わが星」でも「時間の経過によって少しずつ離れていく大親友(月ちゃんとちーちゃん)」という百合を描いていたので、これは柴幸男さんの性癖なのかなと思った。

・ひびらな×たいちゃん
「文化祭をやることは実は自分のエゴなのではないかと悩む委員長×『私は自分の意志で文化祭をやることを選んだ』と委員長を励ます電波少女」
私はここの百合が一番好き。
ここはべったりした百合ではなくて、「毎日毎日ずっと委員会とか文化祭とかやって『学校ごっこ』をしてるけどこれって私のエゴなんじゃないかな…」って孤独を感じていたひびらなが、スピカの転校で文化祭の開催が危ぶまれて心が折れそうになってたいちゃんに愚痴をこぼしてしまった時に、普段は電波少女で何考えてるかわからないたいちゃんが真面目に「私は自分で選んで文化祭に取り組んでるよ」って怒って、そこでひびらなの孤独が解消されるという一瞬のキラメキみたいな百合だった。
ひびらなとたいちゃんはお互い三年生で、小さな島でずいぶん長い付き合いだったはずなのに、それでもお互いのことを理解しきれていなかったというのがかなり良い。
たいちゃんがひびらなの孤独に気づいていなかったのか、ひびらなの孤独に気づいていたのに上手く表現できていなかったのかは解釈が分れそう。「ミラーボール」と言ってバランスボールを持ってきたのはどっちの意味なんだろう。私はどちらでも嬉しい。「勘づいてはいたがそれが『孤独』とまではわかっていなかった」のかもしれない。
「張り切ってるのは自分だけなんじゃないか」みたいな孤独って抱え込みがちなのでかなり共感して涙が溢れてしまった。
ちなみにひびらなはみんなミラーボールをどこから調達するのか聞かれて「自分達で鏡をガチャーンと割って作る」と言うのだけど、これはもしかしてひとつだったものがバラバラになってまた繋がる、的なモチーフなのかもしれない。ミラーボールは「わが星」でも月ちゃんとのシーンで登場してめちゃくちゃ感動させられたので「わたしの星」のミラーボールもとても良かった。なんかCDとかガラス瓶とかまで一緒くたになっていたのがたいちゃんセンスでさらに良かった。

トウコ×サエハ「家庭のために地球に残ることを余儀なくされて物事を冷ややかにしか見れなくなった女の子×トウコの諦観をなおしてあげたいが暑苦しく不器用な性格のためにいつもぶつかってばかりの女の子」
ここは一番熱い百合だった。
トウコの周囲と打ち解けない冷めた性格と、サエハの和を重んじる正義感の強い性格は、普段から反りが全く合わず、たびたび険悪な雰囲気になっていて、周りもハラハラしている。観客からも、最初のほうは「みんなが真面目に文化祭の練習をしないのを見て帰ろうとする」トウコが真面目で大人びた性格で、「みんなと騒いで中々練習しないサエハ(でもトウコが帰ろうとすると怒る)」は不真面目で子供っぽい性格のように見えるけど、よくよく見ると「みんながやらなくても練習するという選択肢を取らない」とうこのほうが受け身でワガママであることがわかっていく。サエハはサエハなりに「みんなと仲良く過ごす」ことを正義だと考えていろんなことをしているわけで、それはそれで大人なのだ。でも当事者はお互い自分の視点でしか物事を見られないので、二人は対立してしまう。
みんながスピカを探しに行く中「転校が決まっている以上スピカを問い詰めたところで何も変わらない」と帰ろうとするトウコに対し、サエハが猛烈に怒る場面があるのだが、ここはめちゃくちゃ迫力がある。女子の喧嘩だ!!!と思った。
ここからがめちゃくちゃ熱い。
激昂しているサエハはトウコに「本当は火星に行きたいのを我慢している」と指摘する。そして堰を切ったようにトウコに思いを伝え始める。「火星に行くのを諦めないで、大学に行こうよ!」トウコはサエハに怒鳴り返す。「おばあちゃんのこと、死ぬってわかってるのに置いていくなんでできない!」そして泣きそうな顔でサエハを見つめて言う。「じゃあ代わってよ…」
ここはもうマジで熱かった。サエハとトウコは幼なじみで、サエハはトウコのことを思っているからこそ何かにつけてトウコとぶつかるのだというのがわかって感動した。そしてトウコはトウコでなんとか現実と願望の齟齬の折り合いをつけようと必死になっているところにサエハが土足で上がり込んできてもう限界だということが「代わってよ…」と言う時の表情で伝わって最高だった。このセリフの直後、スピカ発見の報が入ってこの話はウヤムヤになるのだけど、ヒカリにスピカの代役をお願いする時に真っ先にトウコがお願いするのがトウコなりの仲直りなんだなと思った。めちゃくちゃ熱かった。あと「地球に残る人間もいるのに火星のことばっか言ってデリカシーがないって言ってんの!」というトウコのセリフが好き。
ちなみにボート大会のシーンでボートの先頭にいてリズムを取るのがサエハで、ボートの一番後ろで個々に個々に指示を出すのがトウコなのもめちゃくちゃ良かった。「こんな星に負けるな!」というトウコの叫びは星に残らざるを得ないトウコの本心なんだなと思った。

あまりにも長いので一旦ここまで。続き書きます。